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hotcafe ほっぺた館


モケレンベンベ・プロジェクト
by mokelembembe
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色づき始めた紅葉のおしゃべり

 hot cafe ほっぺた館を開店して1年が過ぎた。開店記念日には、不器用なカフェを気に入って足を運んでくださっている数人のお客様が集まり、韓国からも友人が来てくれて、楽しい交流会が出来た。これまで交流してきた人達と新しく出逢った人達が繋がって、私達にとっては嬉しい祝の日となった。
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「北海道に何しに来たの?」これは移住早々知り合い数名に問われた言葉。「東京の演劇人と繋がってるのが自慢になるのに、こっち来ちゃったら同じ立場になっちゃうじゃない!」なんと!?同じ立場になって良い繋がりが作れるかなと思っていた人達に、壁を作られたようでガッカリした。
 とはいえ、そんな現実も含めこの地の事情も知らずに移住したのだから、古家の修繕ばかりしていては何しに移住したのか自分達でもわからなくなりそうだと思い、ともかくカフェを開いてみたのだった。演劇をやりながら過去私が経験したアルバイトを数えると、60種程に及ぶ。そのうち飲食関係が多く、よくお客様から「自分の店を持ったらいいのに。」と言われたものだが、現実になるとは思っていなかった。でも心のどこかで、いつかそんなことが出来たらいいなと思っていた気もする。
 それはもしや、憧れのあの人の影響かも?そーいや、あの人は本の一冊も出していなかったのだろうか?と突然気がつき検索したら、一冊だけあり!即取り寄せた。何故今まで考えつかなかったのだろう?と不思議に思いつつ、身を正して届いた本を開いた。めったに他人に憧れない私が憧れたあの人とは、青森の「だびよん劇場」牧良介さんである。
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私は牧さんのことはほとんど知らなかった。古巣の黒テントで青森公演の度にお世話になっただけ。多くの劇団やミュージシャンの公演を青森に受け入れ、ご自身でも長年演劇をされている人だということしか。公演の打ち上げの際は「だびよん劇場」に皆集まりワイワイ。牧さんはお店で忙しそうだし、ちょっと怖そうだし?話したこともなかった。入口の掲示板には寺山修司のチラシなどが貼ってあった。
 青森へ3度目に公演へ行った時だったろうか。少人数での芝居の旅も終盤、準備も慣れた頃。私は本番前の空き時間に近所の洋品店でも覗いてみようかと散歩に出た。当時ド貧乏を極めていた私はオシャレもままならず、旅先で東京では流行遅れのような服が安く手に入ることを発見し、密かな楽しみにしていたからだ。
 夕暮れ時に外へ出てみると、小雪がちらついていた。11月の初旬でも、青森はもう雪が降るんだなーと思った。呑気に信号を渡ったら目の前で、薄い白シャツの上に上着も羽織らず牧さんが一人で、道行く人に私達の公演のチラシを手渡していた。仰天して「私も配ります!」とチラシを奪おうとした。牧さんは「いいから!準備をしなさい!」と奪い返した。「準備は済みました。私の芝居だから!大先輩の牧さんがこんな寒い中やってくれて、私みたいな駆け出しが偉そうにしてちゃおかしい!」とまたチラシを奪おうとしたら、牧さんが毅然とした表情で「何十年やってたって、俺はアマチュア!」と怒鳴った。露骨な嫌味にビックリしたけどその姿があまりにも素敵で、もう言葉も出なかった。瞬間的に憧れてしまったのだ。
「貴方は駆け出しだろうと、プロの素晴らしい演出家に認められているんだから、れっきとしたプロなんだよ。でも俺は、この青森で仲間とやってるだけの演劇人なんだから、れっきとしたアマチュア!本番前に役者が身体を冷やしちゃいけないよ。早く楽屋へ戻りなさい。」と諭した。私は頷いて何度も振り返り牧さんの姿に見とれながらも、物欲に負けて洋品店へ向かった。しかし熱病のようにボーっとなり、極彩色の変なズボンを買ってしまった。覚えてないけど、その日の私の演技もひどかったのではないだろうか。牧さんの劇団が東京へ公演に来た時は先輩達と見に行ったら、予想通り素晴らしい役者さんだった。
 プロといっても劇団時代の生活は上手くいかず、身体を壊しほんの数年で退団してしまった私は、経済と身体の立て直しを整えた後、結婚して子どもを授かった。ある日赤ん坊をおぶってふとテレビをつけた瞬間「青森の牧良介さんが亡くなりました」というニュースが流れ、愕然とした。その後、牧さんを偲ぶ演劇が行われたそうだから、やはりいわゆる「アマチュア」なんかじゃないと思った。
 何も知らないくせに小さなエピソードだけで憧れてしまったけれど、本を読んでそれは間違いではなかったと確信した。テレビや映画に何本も出演しておられたのにおごらず、思った通りの人柄が文章に現れていた。でもそれは現在、私があの頃の牧さんと同じ年齢になり、雪の降る土地に暮らし始めたからこそ、やっと共感できたのかもしれない。お若く見えたけど戦争を体験されたことや、小樽のご出身で、色々なことがあり青森へ渡ったことも知った。生まれた場所が書いてあったし、小樽は近いので休みの日に訪れてみようかと思う。
 すべての出逢いはタイミングが重要なのかも。たった一瞬で、人の心は動く。私自身が牧さんとの一瞬の出逢いを胸に、活動を続けているのだから。(Y)
by mokelembembe | 2017-09-12 14:16
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